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老年精神医学として特殊化されるような精神医学部門がわが国で発展しはじめたのはごく最近のことであるが,老人の生き方についての精神衛生的関心,あるいは老人の精神的問題についての医療的配慮というようなものは,かなり古くから持たれていたのであって,それらはすぐに近代精神医学の枠内に取り入れられるようなものではないにしても,老年精神医学に関連のないものではない。そのことを考慮するならば,その歴史はかなり古くまで遡ることができる。
1978年,第11回国際老年学会が東京で催され,その機会に学会はAgeing in Japanという小冊子を出版して欧米の学者にわが国における老年学の現状を紹介するところがあったが,筆者はその中で老年精神医学の項を担当し,“Current Statusand Scope of Geronto-psychiatry in Japan”という題でわが国の老年精神医学の足跡と現況を概観した。その詳細をここに繰り返すことは控えるが,それから約10年の間に考えに多少の変化を生じたので,それについて若干述べさせてもらう。10年前の考えとは,わが国にはもともと独自の老年精神医学なるものはなく,明治初期にヨーロッパから移入された近代精神医学の一部としてその芽が移植されたにすぎなかった,というものであったが,本当にそう決めつけてよいかどうかという疑問を持つようになったのである。それは主として外国の研究者の考え方に示唆されて起こったのであるが,どこの国にも老年精神医学といえるものはなかったのだということ,だが,その発展の土壌,あるいは元型となるものは,むかしの人々が老人に,とくに老人の心の問題にどのように対応し,それをどのように取り扱ってきたかという民衆的,民間的,土俗的レベルでのあり方で,それこそがそれぞれの国の老年精神医学にとって大いに意味のあることでないかと考えるようになったのである。
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