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I.はじめに
正常人では覚醒している場合,吸息と呼息が規則正しく繰り返している。その速さと深さは,血液のO2,CO2を一定のレベルに維持するためのフィードバック機構によって調節されている。肺や胸壁の疾患があると低酸素血症hypoxemiaが起こり,血中のCO2が増しO2が減少するが,呼吸の律動性が障害されることは殆どない。他方,中枢神経系の機能が侵される疾患では,呼吸のリズムが著しく損われる。たとえば,橋,延髄の疾患では不規則に数秒間止まるあえぎ呼吸を伴うし,前脳と延髄の疾患ではChcyne-Stokes呼吸となり,無呼吸が規則正しく現われる。一般に,呼吸のリズム障害は脳に異常があるときにのみ起こるとされていた。心不全のときにみられるCheyne-Stokcs呼吸も脳循環障害のためとされている。
しかし,現在は,Cheyne-Stokcs呼吸の如く規則正しく起こる無呼吸は睡眠時に普通にみられることが知られている。この種の無呼吸は健康人にみられ,生命を脅かす疾患の症候とは考えられていない。眠っている成人の無呼吸は一般に短かく(10秒前後),一晩に10回以下である。老人,いびきをかく人,肥満の人ではもっと頻繁に起こるが,それでも動脈血の酸素飽和度の低下は小さい。しかし,なかには無呼吸の期間が延長し,血液の酸素飽和度が劇的に下がり,不整脈を起こすことがある。こういう場合は,睡眠時無呼吸症候群といい,生命を脅かすに至る。その合併症の最も重篤なのは慢性の肺胞低換気と肺性心である。
このような睡眠時無呼吸症候群の病態生理を理解するためには,睡眠時に中枢性および閉塞性の無呼吸が起こりやすくなるメカニズムを把握しておく必要がある。この綜説では眠っている人に普通にみられる周期性呼吸を中心にして,呼吸の化学的および神経性調節に対する睡眠の影響を述べる。
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