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6月28日(1983)から,国際双生児学会(IV International Congress on Twin Studies)と行動遺伝学会(Behaviour Genetics Association Meeting)に出席するためにロンドンを15年ぶりに訪れた。まず,にぎやかなオックスフォード・ストリートを歩くと主だった建物は昔のままのものが多かった。市内を走る2階立てのバスの番号も経路もかわっていないものが多い。ピカデリーから,ロンドン大学の附属の精神病院であるモズレー病院へ行くバスは相変らず68番だった。日曜市では以前と同じ場所で同じようなものを売っていて,食料品は相変らず安い。オレンジが8個で50ペンスすなわち約170円,日本では考えられない位安いこのオレンジを学会に出席した友人と食べたがなかなかおいしかった。
さて,上記の2つの学会に出席しての印象であるが,最近,幼児期をはじめ一般に小児期の行動の遺伝学的な研究がさかんになっている。小児期の行動への遺伝の影響などほとんど問題にしていない本が多かった十数年前に比べると大きな変化である。双生児の調査結果の解釈についても以前は疑問が多かった。たとえば,一卵性双生児は容姿がよく似ているから,両親から同じように扱われやすいのに比べて,二卵性双生児に対しては両親が二人に対して異なった接し方をしやすいのではないか,そのために二卵性の二人では行動に差が出る傾向がよく見られるのではないか,などの疑問が出された。もし,一卵性と二卵性の一致率の差が親の接し方の違いに起因するものであれば,実際は一卵性であっても容姿が少々異なるなどのために両親が二卵性と信じこんで育てた場合は行動の面で他の一卵性の双生児ほど似ていなくてもよいことになる。実際には,これらの双生児について活動量,注意の持続,社交性などに関する二人の差を調査した結果では,一卵性と思って育てられた一卵性双生児の間の二人の差と同じであった。また,二人の容姿が似ている場合も似ていない場合も一卵性である場合は(双生児の二人の間で)行動特徴に関しては同じ程度の差しか認められていない。このようなデータから,行動特徴に及ぼす遺伝因子の影響に関しても双生児を調査し,一卵性と二卵性双生児での一致率(または類似度の平均)を比較することによって,正しい結論が導き出せると考えられるようになった。その後,別々の家庭で育てられた一卵性双生児での一致率の調査や,養子の調査が行われ,いずれも通常の双生児研究による結論を確認するような所見が得られた。このことが更に,双生児の研究者に一層自信をもたせることになった。
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