特集 精神科診療所をめぐる諸問題
巻頭言
精神科診療所への期待と隘路
西尾 友三郎
1
1昭和大学医学部精神神経科学教室
pp.1036-1037
発行日 1982年10月15日
Published Date 1982/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405203476
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筆者のようにいい年齢になるまで大学病院の外来診察をやっていても,精神科って一体どうなっているんだろうと思うことがしばしばある。次の点は診療所と違うところだろうが,初診が主であって,次は再来担当医に任かせる。それゆえに初診では診断や治療のめどが1回でつかなけれ何度か外来診察をつづけざるをえない。1回だけで再来に移す場合でも上記のようにどうなっているんだろうというような思いをするのは大体診察時間が長くなった後である。精神病らしいがさて診断はというような者は次回の診察を約してむしろそう時間をかけずに別れる。ため息が出たりするのはむしろ,問診で段々出てくる嫁,姑,小姑との関係だったり,男にだまされたといって死にたくなった人妻の嘆きだったり,サラ金でくびが廻らなくなった勤め人の告白などで,延々1時間を超すことは珍らしくない。面接技術の問題だといえばそれまでだが,学生が陪席している時などはなるべく婉曲に問診しようとするためもある。しかし陪席者を退席させて面接してもやはり考え込んでしまうものである。聞いてあげることが治療の1つだと分ればそれなりに再来に任せる。時間をかけたあげく「あなたには薬はあげられない,次回は御主人と来てください」などと帰らせたりすることもある。勤務医だからこんなことをやっていられるのかと思ったりするのだが,他方こういう時に学生や若い医師には医療の中での精神科の役割を説明したりするのである。学生は真剣に聞いているのもあれば,呆れたような面をしている者もある。
冒頭にこのようなことを述べたのはこれが精神診療の中でも精神科診療所の診療に割と似ているのではないかと思うからである。
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