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I.はじめに
わが国と世界との交流が深まるにつれて,多くの日本人が海外に住むようになった。それも,以前のように先進国など一部の国々だけでなく,世界全体に広がり,今やわが国のビジネスマンや技術協力者のいない地域はほとんどみられないほどである。
異質文化の中で生活することは,とりもなおさず文化摩擦にさらされることである。ことにわが国のように,海に隔てられた島国で,単一民族が長い世紀にわたって独特の文化を育てている場合には,海外で生活する時の文化摩擦はただならぬものがある。不適応現象の頻発も,けだし当然といわねばならない。
今後,国際交流がますます強まるなかで,とくにわが国のようにどの国とも緊密な交流を不可欠とする国にとって,いかにしてこの文化摩擦による不適応現象を克服してゆくかは,まさに国をあげての課題だといわねばならない。
ところが従来,このことが充分には認識されず,最も必要なはずの精神衛生対策はなきに等しい実情である。このために,当事者たちが必要以上に苦しむばかりか,現地住民との間にあらぬ誤解や軋礫を生じて,しばしば国際紛争をさえ生じかねぬ有様である。
著者は,この10数年さまざまな機会に海外に滞在したが,いずれの地域でも在留邦人の不適応現象に数多く直面させられた。しかもそれが,この数年より深刻化しており,看過し得ぬものを痛感させられる。こうして,あらゆる機会にこの問題と系統的に取り組むことを始めた。少しでも早く,実態の把握と対策を講ずるためである。
以下に述べるものは,その概要である。これによって,諸家の注意を喚起するとともに,少しでも実際の役に立てればと願っている。なお,調査の詳しい資料は,続報において報告したいと思う。
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