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1)抗精神病薬を投与された精神病者におけるtardive dyskinesiaの有病率は,少なくとも軽症例を含めれば,近年確実に増加していることを示す資料が多い。また外来通院分裂病者,躁うつ病者,神経病者,精神障害の認められない内科患者,更に若年者や小児においても,人種・性別に関係なく発生することが明らかになり,この副作用は今日すでに精神病院だけの問題ではなくなってきた。
2)tardive dyskinesia刎堅重・多彩な病像,いくつかの発症様式や経過が知られた。症状の局在によって,①口・舌・顎・顔面に出現する高齢者に多い型と,②躯幹・四肢に出現する低年齢層に多い型が,また発症様式によって,①単独で緩徐に発症するもの,②休薬ないし薬物減量後の発症(一過性の離脱dyskinesia,持続性の潜伏dyskinesia),③早発・急性・亜急性のdystonia,akathisia,tremor,rabbit syndromeからの移行型やparkinsonismへの合併型,④抗パ剤,抗てんかん剤,lithiumなどの中毒症状の一部として出現する稀な型などが,更に経過と転帰から,①軽症可逆型,②再発・出没型,③重症非可逆型などの類型を区別できる。
3)現在までdyskinesiaの原因とならないような抗精神病薬は存在せず,安全度の高い薬物も識別されていない。しかもtardive dyskinesiaは抗精神病薬に特異的な単一の薬原性疾患ではなく,種々の原因からなるsymptom complexないしreacti・on patternと考えられる。抗精神病薬のほかにも抗パ剤,抗うつ剤,lithium,抗てんかん剤,抗ヒスタミン剤などが,単独でdyskinesiaを惹起することが知られ,reserpine系降圧剤,sulpirideやmetoclopramideなどの胃腸薬(いわゆるneuroleptiques dissimulées)によるdyskinesiaも報告された。今後も中枢dopamine系およびcholine系活動に直接・間接に影響を及ぼす向精神・神経薬が,原因薬物として新たに加えられる可能性がある。
4)tard量ve dyskinesia発生の危険を増大せしめる要因として,これまでのところ,数カ月間以上の抗精神病薬投与,抗パ剤など抗コリン剤の併用,高齢,早発性・急性ないし亜急性錐体外路症状の既往またはparkinsonismの持続などが挙げられる。一方で高齢,脳障害の存在,抗精神病薬の数年以上の大量長期連用,多剤併用などが,症状の重症化および非可逆化を促進している要因と考えられる。
5)tardive dyskinesiaに特異的な脳の器質的変化を示す脳病理学的,神経生理学的所見は見出されていないが,線状体におけるd。pamine系の活動元進,choline系活動の相対的低下があることは確からしい。dopamine系機能充進の背景に受容体の“denervation hypersensitivity”を想定する仮説は,入間では立証されなかった。この仮説は一過性の離脱dyskinesiaの説明に適用されている。
6)従来試みられた多くの「治療薬」は,dyskinesiaの生化学説の検証には役立ったが,実用に供せられるほどのものはないようにみえる。発症および非可逆化の原因となる抗精神病薬は,如何に有効であってもdyskinesiaの治療薬とすることはできない。休薬によって症状の消失,少なくとも軽減が期待できる以上,「治療薬」は原則として自然の回復を促進する手段としてのみ用いられるべきである。
7)この副作用の発生を考慮しても,分裂病の治療における抗精神病薬の有用度は依然として高い。抗精神病薬を長期使用する限り,dyskinesiaの発生を完全に予防することは不可能であるが,重症化と非可逆化を防止することはできる。病状と経過に応じて薬量の削減と投薬期間の短縮を心掛け,抗パ剤を含む多剤併用の長期化を避け,早期発見と迅速な処置という薬原性疾患予防の原則を忠実に守って,被害を最小限にとどめるのが今日の臨床家に課せられた義務である。
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