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精神医学の中で科学的研究方法が比較的支障なく行なわれる領域は遣伝学や神経病理学であったことは歴史の示す通りであるが,第2次大戦以後,神経生理学や生化学,殊に近年は精神薬理学や神経化学,行動科学などの基礎科学の急速の進歩によって,精神疾患の本態と治療に関する臨床的研究が世界で活発に行なわれるようになった。科学的研究の立場はこのような精神疾患の生物学的背景の研究に重要であるのみではなく,疾病診断分類や疫学的研究,発病因や予後に関する社会心理的研究,精神療法や社会復帰療法の評価,更には比較文化精神医学の領域など精神医学の全分野にとって極めて重要である。しかしわが国の精神医学の伝統と戦後の経済復興によって,わが国の生物学的精神医学の研究レベルは先進国のそれに伍しているといっても過言ではないようである。すでに米国ではbiological psychiatryの学会が大戦直後から行なわれていて,今年度は34回の年次総会が5月10日から3日間シカゴで開催されている。この学会は今回の日本生物学的精神医学研究会の発起人になった方々の数人がすでに正会員となっておられるように米国人以外の学者も審査を受けたのち会員になれるようになっている。しかし,近年次第に各国で独自にこの種の学会が設立されるにつれ,国際的交流を目標にこれらの各国の学会や団体の世界連合の会議を開催する動きが起こり,第1回が1974年にブエノスアイレスでProf. E. Fischer会長のもとに行なわれた。1978年にはバルセロナでProf. C. Ballús Pascual会長が第2回の国際会議を開催し,第1回,第2回ともわが国の研究者からも多くの発表がなされた。このような趨勢の中で米国のbiological psychiatryのわが国の会員の方々を中心に発起人ができ世界連合に加盟できる研究会を形成する気運が生まれ,今回の第1回日本生物学的精神医学研究会が開催されることになった。昨年のバルセロナの国際会議では第3回の会議の副会長の一人にわが国の研究会の事務局長である福田哲雄教授が選出された。
さてこのようにして生まれたわが国の研究会の第1回の学術集会が昭和54年3月8日,9日久留米大学精神科の稲永和豊教授を会長として,久留米市医師会館で開催された。第1回目のため主として発起人の研究者を通して公募された一般演題と特別講演2題,シンポジウム一つがプログラム委員会によって構成され,発表された。会場には2日間にわたり若手から長老まで300人ほどの精神科医が参加して熱心な発表と討論がくりひろげられた。
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