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I.はじめに
地域精神医学あるいは地域社会精神医学なることばと内容は概して一般受けがしない。それはたぶん地域精神医学そのものの考え方が従来の医学の流れに棹さすものを含むからであるが,一方で転換の要請―それはかぎりない収容による人の運命の固定化への危惧といってよいと思う―に比べ,それに対応する方法がはるかに遅れているためでもあろう。知られるようにわが国では現在,地域精神医学が進展すれば果たされるであろう全国的な結果を得ていないし,その上この面での先進国からの情報も必ずしもポジティブなものだけではない1)。したがって全体的に明るい見通しをもつものとはいいにくいが,それでも精神科臨床の日常性のなかにその要請はある。
周知のように欧米では,地域精神医学の発達は精神分析の知識に負っているといわれるが,その要請自体は特定の医学上の立場ないし特定の疾病観を必要とするものではない。
本稿では,わが国における地域精神医学をふり返ることが求められているのであろうが,アメリカのそれ2)のように全般的軌跡を描くには,展開そのものが局地的に過ぎる。しかも最後に一言ふれるが,個々の実践に基づく近来のすぐれた報告は身近かにそれぞれ存在すると考えてよいであろう。したがって,ここでは初心・原則的なことにもどって若干の整理-再整理を試みることとした。地域精神医学は,病人ないしクライエントと地域社会との関係を主軸に歴史を捨象しても描けるのかもしれないが,その方法はとらなかった。また,地域精神医学は特定の疾病・状態を対象とするものではないが,ここでは一応分裂病圏の問題にしぼることとした。それらの理由の一部は便宜的なものであり,他は後で多少ふれることとする。
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