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I.はじめに
1830年頃,Sir Charles Bellによってはじめて職業に関する特殊の運動障害のうち,書字に関するものに,書痙の病名がつけられたという3)。これは,はじめは器質的なものと多くの学者に考えられて記述されていたが,1930年頃になって心理的な原因によるものと考えられ,論ぜられるようになった。これらの心因論は内山11)や阿部1)によるとFarmer,Janet,Pai,Culpin,Gloverなどによって論じられたという。
日本では森田が1931年に神経質の精神病理によって書痙の起こることを発表している7)。この時に森田は,書痙が多くの場合,対人恐怖と関係ありとした。黒川5),岩井2)も対人恐怖との関係を考えている。その後Schulzは自律訓練によって効果あることを述べており10),わが国では,1960年頃に笠松4),村上8)が,予期神経症として記述している。1959年に山田はこの職業性けいれんの発呈は,緊張異常体質によるものとし,森田の神経質と異なるとして論じ14)ているが,われわれの考察するところでは森田の神経質でもそれと極めて近い緊張異常を起こすと思われる。
森田は5例の書痙入院患者の治験例を述べ,更に茶を飲む時に手がふるえてこぼしてしまう2例の患者を茶痙と称してあげている7)。黒川や山内も,コップや酒杯や徳利をもつ場合に手のふるえるけいれんが現われることを述べ,山田はパチンコ遊戯のとき手のけいれんを「いわゆる職業性けいれん」の中に入れて論じている。当診療所の入院者にも近縁の症状として,客に茶を出すときに手が強度にふるえてこぼしてしまう(主訴)(会社で茶を出す役)1例,人前でお茶を飲むときこぼしてしまう(主訴)の1例,更に人前で手のふるえのために杯の酒をこぼしてしまう2例があり,1例はそれが主訴,1例は対人恐怖と同程度に強く訴えるものであった。この論文の題として,「いわゆる職業性けいれん」という言葉を用いたので,これらは一応職業性とは幾分ずれるところがあるため,本論文では除くことにした。職業性けいれんで入院を希望するようなものは,一般にとらわれの強度の例が多く,治療に時日を要するものが多い。
森田が1931年に発表しているにもかかわらず,それ以後森田療法の治療発表は少なく,一般の学会でも森田療法の効果の大なることについての認識が少なく,内山も情緒障害辞典13)に,行動療法,自律訓練,催眠法,精神分析,心理劇を治療法として述べているが,森田療法についてはふれていない。
内山11,12)は行動療法により,前田9)は自律訓練により,安部1)は自律訓練と行動療法の両方を用いて,書痙の治療を行なっている。その予後についての報告は,内山は6名について系統的脱感作法後6〜24カ月で調査し,治療直後と大差がないと報告し,阿部は1964年,1965年に自律訓練,催眠と書字訓練を14例行なったものに予後を問い合わせて(その間隔が記載されていない),直後より更によくなっていると記述している。また,岩井2)は外来面接の催眠-森田療法による書痙の治療例をあげているが,いまのところその予後調査は発表していない。
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