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I.はじめに
専門誌「精神医学」の20周年記念特集号への寄稿で,著者自身まず想起することは,同誌第1巻1号に「退院後の分裂病者のケース・ワークについて」と題する研究報告を掲載してもらったことである1)。冒頭から私事にわたり恐縮であるが,実はこの報告が本稿で真先に述べるべき内容の出発点に当たると思うので,敢えて20年以上も前の足と時間を惜しみなく使ったあげくにできた小論文を多少の感慨をこあて振り返ってみたいと思ったのである。当時はソーシャル・ワークとかPSWなどの用語も人もなく,ただ病気再発の初期の兆候を,経過も含め自から詳しく眼のあたりに確かめてみたいと思い,2年間にわたり20数例の在宅者の訪問指導をコツコツと続けたのであった。関連の文献などあまり考慮しなかったが,あとでいろいろ聞いてみると,1959年(昭和34年)頃といえばアメリカでは薬物開発の影響もあってか,退院後の分裂病者のフォロー・アップが医師以外のメンバーも交じえて実践的に研究されつつあったという。それが4年後のケネディ大統領のかの有名な「精神病および精神薄弱に関する教書」となって,その後のアメリカの精神衛生対策に多大の影響を及ぼしたのだと合点される。20年後の今日では,その後の合衆国の対策の経過や動きが(ヨーロッパ諸国のそれも含めて)どうなっているか,多くの紹介記事(とくに「精神医学」誌上)で周知の事実となっているのでここではこれ以上ふれないが,問題はやはり精神分裂病罹患者のリハビリテーション(以下リハ)は極めて難しく,とくに日本ではなお多くの社会経済的制約によりこの研究が二重に困難な状況に置かれているということであろう。
著者は過去20年にわたる烏山病院でのリハの実践活動を主軸に病院精神医学におけるリハ研究の問題を報告したいと思うが,以下第Ⅱ部で述べる再発をめぐる長期にわたる研究は依然として重要であり,リハがいかに進展したとしても精神欠陥後遺の問題とともに今後も専門技術を駆使して対応していかなければならぬと考えている。第Ⅲ部ではリハと中間施設の問題が中心となるが,これらに関する報告は実に多くの文献となって残り,烏山病院の実践の記録も,1971年に出版された精神科リハビリテーション(医歯薬出版)2)にいちおう集大成された。したがって,その後の約7年間におよそどの程度までリハが進展しまた研究が進んだかが報告の主体となるが,私は中間施設の研究もさることながら,そのなかみの濃い部分は実際には臨床チームの諸問題と長期在院者の問題であり,然るのち精神病院からみた中間施設の論議をわが国の精神衛生対策の実情に即して(厳密には研究とはいえない部分もあるが)建設的に述べてみたいと思う。第Ⅳ部は1978年4月に発表された中央精神衛生審議会(中精審)の「精神障害者の社会復帰施設に関する中間報告」についての検討である。これは精神病院のリハはいかにあるべきかについて,はじめて正面から取り組んだ報告が中心となっており,識者の間で多大の関心を呼んでいる。したがって今後のリハ研究の焦点となりつつあるが,本稿では主として烏山病院の経験と現状に照らし,この中精審報告と対比するとき,リハの未来像のみならず主として社会政策的,医療経済的側面からも多くの興味ある示唆が得られたものと考えていることにも論及してみたい。
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