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はじめに
精神科リハビリテーションというと,個々の患者のリハビリテーションもさることながら,精神科,精神病院自体のリハビリテーションということが,つい頭に浮ぶ,ここ20年来,いわゆる精神薄弱の福祉施策が進展し,以前とは比較にならない程のひろがりをみせている.だが一方,いわゆる成人精神薄弱者の少なからざる数が精神病院に収容されている事実を忘れてはなるまい.また老人に対する福祉施設が数多く建てられているが,いわゆる「ぼけ」の進んだ時に行きつくところは,しばしば精神病院という事実もある.
やや感情的にいえば,精神薄弱福祉を語り,老人福祉を語るならば,こられの被収容者をそれぞれの体系に引き取ってほしいということになるが,この論理の立て方に誤まりがあるだろうか.周知のようにここ10年来,精神科,精神病院に対する当事者外からの批判はさまざまにあるが,一方で日常的に精神病院を安全弁として利用しながら,その結末だけを批判する風潮は決して望ましいものではない.
ここでは,精神科において今なお治療,リハビリテーションの中心課題である「分裂病圏」の患者を想定することとなるが,正直のところ,そして一般的にいって,精神科,精神病院は「分裂病圏」を中心とするいわゆる機能性精神病,心因反応・神経症などで明らかに手いっぱいであり,それ以上に安全弁的機能を押しつけられることは,これらの患者の治療,リハビリテーションを阻害するに等しい感がある.いいかえれば,個々の患者のリハビリテーションには,精神病院としての機能の整合性が必要であり,その基本性格が社会にとっての安全操置であるかぎり,おそらく治療,リハビリテーションの発展は,大きくは期待できないのではないだろうか.
さて,以下「分裂病圏の患者のリハビリテーション」について概観するが,この「分裂病圏」という概念とリハビリテーションの関係は,各種の「障害」とリハビリテーションの関係ほど判然としたものではない.そもそも精神分裂病(命名者が用いたことばは,「精神分裂(症)群」)という名称を普遍化したBleuler,E.(1857~1937),現在の精神科の分類体系の基礎をつくったKraepelin,E.(1856~1926)のいずれもが,分裂病を確定した疾患単位としてみていた訳ではなく,おまけに自然治癒,健常への移行を指摘しているくらい幅広いものであるから,理論的にはその中の一定の状態にリハビリテーション活動を向い合せるべきであろうが,その状態をなかなか特定できないのが現在の実情である.
でありながら,精神科でリハビリテーションが語られ,しかも重視せざるを得ない理由は,次項のような経験が大きなインパクトとなっているためである.
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