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Ⅰ.まえがき
自閉症の病因に関しては,現在種々の議論がなされており,その中で,最近注目されている仮説の一つにOrnitzら5,6)の唱える知覚障害説がある。これは,自閉症児は外界の刺激を適切に調整できず,そのためある刺激には過反応を示し,熱中したり恐慌を起こしたりするが,ある刺激には無反応であるといったperceptual inconstancyの状態であるとしたものである。そして,その結果として発達に障害を来し自閉症状を生じるとした。その障害の原因としては,central nerve systemのhomeostasis調整の失敗を仮定し,その病理的メカニズムとして神経生理学的なものが考えられている。Ornitzらはvestibular systemのcentral connectionを伴う脳幹の機能異常ではないかと述べ,その生理学的確証を求めて誘発電位等の研究を進めている。一方,こうした知覚障害説に対しRutterら1)は自閉症児がpsychometricな評価でvisual perceptual defectの存在を示す結果を示さないことから自閉症の病因としてのvisuospatial defectの存在を疑問視した。さらに,盲児や聾児といった知覚的障害を持った子供が,必ずしも自閉症状を示すとは限らないことより,知覚障害と自閉症状を結びつけることへの反論も出されている3)。
このように,自閉症の病因論ははなはだ混沌とした状況を呈している。しかし,自閉症の中には確かに知覚的な障害を示す子供達が存在し,一次的病因であるか否かは別としても自閉症児の知覚のあり方を明らかにしてゆくことは重要である。だがその場合,知覚とは何かということが問われなければならないだろう。知覚の問題は必ずしも生理的レベルのみで論ずることはできず,心理学・哲学の分野においても広く論じられている。
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