プログレス
自閉症児治療の動向
栗田 廣
1,2
1国立精神神経センター
2東京都精神医学総合研究所
pp.49
発行日 1988年1月15日
Published Date 1988/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518103950
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幼児自閉症あるいは小児自閉症(以下自閉症と略)は,主として胎生期にさまざまな原因が作用して,個体の脳機能が障害され,その結果,幼児期に言語発達の障害,対人関係・社会性の障害,環境や習慣の変化に対する強い抵抗や常同的な身体の運動,さらには知覚の異常などの障害を呈する状態と,現在,考えられている.原因療法はまだ存在せず,また原因が解明されたとしても,幼児としての発達の可能性はおおいにあるが,実際にはすでに脳機能が障害された結果の“後遺”状態を扱うわけであり,さまざまな行動および精神発達の問題に対して,多面的な取り組みが必要である.その中でも1970年代より進展してきた自閉症の表象機能の障害を中心とする認知障害に関する研究の知見に依拠し,子供の精神発達のプロフィールを把握し,それに基づいて自閉症児で発達の不良な概念形成などを課題学習を通して促す教育的方法が,現在,自閉症の治療(療育)の主流となっている.サイン言語や他のシンボルの使用の教育など,直接コミュニケーション能力を高める試みもたいせつであるが,概念形成が進展しない限り獲得した技能の応用は困難である.また行動療法は,特に生活習慣の確立や異常行動の除去に有効であるが,その原則は教育的方法において学習課題を達成させていく過程にも適用されている.
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