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I.はじめに
Janzarik1)は1961年1月1日から1971年8月31日までにWiesbaden衛生局の精神神経科相談所を訪れた60歳以上で分裂病性症状を呈した800人の患者(男247人,女553人)の内60人を対人接触欠損妄想症(Kontaktmangelparanoid)という症状群として取り出し報告している。要約すれば1)平均発病年齢は68.7歳である。2)男女比は1対20で圧倒的に女性が多い。3)病前性格は行動的,活溌で対人的に多大な要求を持っている反面,敏感,易刺激的で孤立しやすい。4)病像は幻覚・妄想状態を呈し分裂病様である。5)発病が患者の置かれている対人的孤立状況と密接な関連があるのが特徴的である。6)入院,老人ホーム収容など生活状況(対人的布置)を変えることにより速やかに治癒する。7)全経過にわたり分裂病者に比べ疎通性が良好である。
Kraepelin33)が高年齢における精神病を"精神医学における最も暗やみの領域"(Dunkelste Gebiet der Psychiatrie)と述べたのは有名であるが,初老期および老年精神病における疾病概念の混乱は精神医学史の流れの中でなお存続している。端的に把えると,より細分化した疾病類型の把握を求める方向と,従来の内因性精神病の老化による年齢加色であるとみなす見解の2つがあるといえる。しかしこれらの見解の相違は別にしてライフ・サイクル(Erikson2),Piaget, Lidz3)),または比較世代研究(新福4),藤縄5)),発達心理学的研究6)などによって人生のサイクルの中で病者が位置する年代に特有な状況の心理学的解釈を試みる見方が再び取り上げられている。われわれも年代と性別により規定される固有な意識構造が,精神病の発病に対し重要なかかわりを持っていると考え,すでに40歳台の男性における妄想・幻覚精神病についての考察を試みた7)。今回は初老期以後の女性に発病したKontaktmangelparanoid(Janzarik)の4例を取り上げ,この時期における病者の心性,並びに発病に至った状況について考察を行ないたい。
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