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I.はじめに
生物が存在する環境には周期的変動を繰り返している現象が無数にある。身近なものとしては昼夜の交代する時間を単位とする1日があり,潮の干満のように1日よりも短い周期で変動しているものもあり,人工的なものでは,秒,分,時という単位で時刻が刻まれている。一方生体内の生命活動も数多くのリズム現象の組み合わせで営まれている。約28日を周期とする月経周期や,1分間60〜80の脈拍のように意識されるものもあるが,多くの生体リズムは意識されない。しかし,昼夜が逆転したような生活条件―例えば,交替制勤務,時差のあるところを移動した際―ではこの生体リズムが外部環境との間に調和を失う(desynchronization)とその生体リズムの存在を意識するようになる。このように自律性をもって反復する律動現象はバイオリズム(biorhythm)と呼ばれ,近年このバイオリズムの重要性が注目され,各種の生体リズムを中心に生体の生理的ならびに病理的現象を時間の関数として研究する学問の分野は時間生物学(chronobiology,chron=時間,biology=生物学)と呼ばれ,研究が活発に行なわれている。
このバイオリズムの研究の多くは,およそ24時間を一つの周期とするcircadian rhythm(circa=around=約,dies=day=日,日内リズム)に向けられてきていた。例えば,体温,代謝率,摂食-排泄,脈拍,血圧,血球成生,ホルモン分泌,細胞分裂,各種の酵素活性,尿量,尿中電解質,睡眠-覚醒などはこの日内リズムを示すものである(Scheving,HalbergとPauly,197440);Luce,197031))。このような律動現象では最大値と最小値を示す時間関係が重要な意味をもつ。すなわち体温や代謝率は覚醒時に上昇し始め入眠時に下降し始める。各種の生体リズムのうちで脈拍や体温などの日内リズムは強固な律動性をもっていて,ヨガ,禅や自律訓練などのような特殊な状況下を除いては,随意にそのリズムを変えることは困難であるし,断眠時にも脈拍,体温の日内リズムは維持されている。一方睡眠は日内リズムの中でも典型的なものと考えられているが,前述の脈拍や体温がかなり強固なリズムをもっているのにくらべかなり随意に変えられる。すなわち意志の力で1〜2夜は睡眠をとらずに過ごすことができるように,外的要因の影響をうけやすいという点では特異なリズムともいえる。
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