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I.はじめに
分裂病患者で自律神経機能ときわめて密接に関連するさまざまな生体機能の変調の存在することが早くから指摘されていた。体温に関しても,分裂病者の手足が一般に冷たく,ジトジトしていて,平均体温が低く,皮膚温の寒冷や温熱に対する異常反応が認められるといった報告があり6,7,10〜12,15),体温調節機構に何らかの機能不全の存在することが推測されてきた。しかし,「分裂病の生物学的研究」に共通して認められていることであるが,分裂病者の体温に関する研究でも,必ずしも一致した所見は得られていない。それは,研究者の間に存在する分裂病の疾患概念の相異や臨床診断のむずかしさから,生物学的研究で常に要請される研究対象の均一性を求めることの困難さによることがまず第一にあげられる。また,情動による変化,栄養条件,衛生状況,身体的治療などの分裂病の病的過程とは切り離して考えることのできない2次的要因,さらに皮膚温を含めて体温の研究に際して問題となる生体を取りまく環境の温度や湿度などを一定に保つことが困難であったことに起因しているともいえる。
ところで,生体の生理的機能がほぼ24時間を周期とした日内変動を示すことは早くから知られていた。ヒトの体温もまた朝方最も低く,午前7時頃から急激に上昇し,午後5時頃に最高値に達し,その後徐々に下降する明瞭な日内変動を示すことが,すでに1845年Davyによって詳細に報告されている8)。当初,この変動は外部の寒冷や温熱,運動や休息などに起因するものと考えられていたが,多くの研究者による膨大な観察の結果,生体の生理的機能が示す日内リズムのうちでも,外部環境による影響をとりわけ受け難い,最も安定した「内因性」の日内リズムの一つであることが明らかにされてきた。さらに,このリズムの発現が前視床下部に存在する体温調節機構(thermoregulatory centers)と密接に関連していることが想定されている1)。また,その本態はいまだ明らかにされていないが,脳内化学伝達物質(neurotransmitters)ことに,noradrenalinやserotoninの活性アミンの代謝の体温調節に対する関与を示唆する報告14),あるいは前視床下部の活性アミン濃度の日内リズムと体温のリズムとの関連性を推測する研究者も現れている13,26)。
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