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I.はじめに
1968年,W. H. O. 顧問として3ヵ月にわたり来日したD. H. Clarkは,「日本における地域精神衛生」なる報告書を残している8)。その中につぎのようなくだりの精神病院批判がある。〈日本では非常に多くの精神分裂病者が精神病院に入院し,たまり,長期入院による無欲状態に陥っている。……しかも,これら患者の大多数は25歳から35歳の若い人々だった。普通に寿命を全うすることになると,これらの患者はあと30年も病院に在院する可能性がある。……多くの医師は器質的な問題にのみ目を向け,身体的治療を行ったり,カルテを作成するといった伝統的な医師の役割だけにもっぱら自分たちの責任を限定しているようにみえた。……看護婦たちにしてもまた,自分たちの責任がrehabilitationへ向かう活発な指導や,その促進にあるとみなすよりは,身体的看護を施すことにあるとしているように思えた。……多くの病棟は必要以上に閉鎖され,患者たちはここで長い生涯を送り,希望もなく,病院ボケに陥っている。……入院患者の着実な増加を防ぐために,積極的な治療とrehabilitationを奨励するよう推進すべきである〉と。
このレポートの全文は,広くゆきわたっていない。それだけにさしたる論議を生むに至らなかったようである。批判を全面的に正しいものと認める寺嶋は,〈精神病院への入院一辺倒の医療体制は終わらせねばならない。……われわれは伝統的病院中心主義を脱し,rehabilitationの理念を病院の内外で具体化していかねばならないまさに歴史的正当性を手中に握っているのである〉と記している44)。がしかし,5年後の現在においても寺嶋のいう歴史的正当性は,なお具体的プログラムとして大きくうねり始めてはいない。厚生統計はなお入院中心主義を示唆し,多くの精神科医の目は,SchofieldのいうYAVIS症候(Young,AttractlveVerbal,Intelligent,Successful)40)を持つ患者に注がれている。薬物でも動かすことのできなかった慢性分裂病者は,精神病院の内外からあきらめられ追放され,精神病院のボタ山と化そうとしている。このような現状からrehabilitationの可能性を志向するとすれば今一度,精神医療の流れを辿り,われわれがどこまで辿りつき,何が欠けているのかを読み取る必要があろう。そこから新しい戦略をたてることも無駄ではあるまい。
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