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I.はじめに
精神分裂病者の転帰のうち,入院患者の残留率をみると次の特徴を知る。1969年の時点で,1955年に松沢病院に入院した患者のうち,その約35%はなお在院する。これに対し,1964年度の入院者では,その残留率は約15%となる。時間経過を考慮すれば,確かにこの数値は残留率の著しい減少を示す。が,年間入院者約300名の実態からすれば,その絶対値はかなりの数となる。加えて,ここ数年間,この数値に変動はない。したがって,さまざまな治療に抗し,なお長期にわたり在院する分裂病者の絶対値は必ずしも減少しないことが予想される。当然のこととして,この長期在院者の治療のすすめ方を,くり返し問わざるをえないのが病院精神医療の現状ともいえよう。
もちろん,これは今に始まる課題でもない。おそらく,いわゆる働きかけとしての治療的姿勢が登場する背景に,当時,圧倒的多数を占めた長期在院の陳旧例を,どのように治療するかの切迫感のあったことは否定しえまい。そして,この切迫感は陳旧例を他律的に動かしえたことにより,急速なテンポでどう動かすかの技術論に向かったといえよう。だが,技術論だけがおしすすめられるとき,そこに治療をめぐる多くの空洞が残る。さらに,技術論を支える病態へのさぐりを欠くかぎり,働きかけと称し,誤った方法論を採用する可能性も否定しえない。例えば,あの患者は荷札作業をよくやる,活動的である,という場合,それがその患者のもつ病態としての常同・固執,あるいは孤立への志向性によって支えられた活動性であるかも知れない。そうであるならば,そこで行なわれる荷札作業は,むしろ常同・固執,孤立の志向を強化していることとなり,技術論としての誤りを犯していることにもなりかねない。したがって,働きかける側の基本的態度として,例えばある患者が孤立的であり,自律的には動きにくいとするならば,(Wasとしての視点),何故動きにくいのかを(Warumを問う視点),どう動かすか(Wieを考える視点)の技術論の実践的展開の中で,より具体的に多方向的に見つめなおし,この<Was-Warum>の構造から,Wieの方向をくり返し検討し直すことが,働きかけの技術論に常に問われているというべきであろう。もちろん,陳旧例でWieを射程内におき,Wasの視点をどこに定めるか,さらにはWarumを問うむつかしさはあらためて述べるほどのことでもない。が,問うとも答えずと,他律的ゆさぶりにのみ力点を注ぎ,それやれ,それやれの勢いだけを強め続けてきたのが,働きかけの軌跡とみることも,ひとつの反省的見解として許されよう。とすれば,むつかしくとも,Wasを知る視点をさまざまに移動し,Warumを問う試みを続けることが働きかけの技術論を,より治療の本筋に近づけるためには必要な手段といわざるをえまい。
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