特集 精神障害と家族
巻頭言
家族力動論と家族治療の効用と限界
加藤 正明
1
1国立精神衛生研究所
pp.1250-1251
発行日 1973年12月15日
Published Date 1973/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405202108
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大ていの精神科医は,家族力動について考えなかった時代から,ことに子供の行動障害や精神分裂病の治療にあたって,親の取り扱いが必要であることに気づいていた。しかし,問題の親をどう扱ってよいかわからず,ただその異常性を遺伝素因とみなすことによって,働きかけることをしなかった。また,神経症患者の治療にあたって,患者のもつ家族イメージが客観的事実よりも大切であり,この家族イメージがいかに変容するかが神経症治療の手がかりとなっていた。しかし患者の家族への接触は患者自身も望まないことが多かったし,その必要も感じなかった。
家族力動に関する知識がかなり一般化された今日においても,これにどの程度のウエイトを置くかは,精神科医の学問的立場によっても,患者によっても大きなちがいがあるのは当然であろう。いわゆる「家族因」といわれる要因が,患者のパーソナリティ形成に重要な役割を演ずることは認めても,ある疾病の病因としてどの程度のウエイトを与えるかに大きなちがいがある。多次元診断と多次元治療の立場に立って,家族因と家族の治療が多かれ少なかれ必要であるとするもの,疾病の原因として家族因はpathoplasticな要因ではあってもpathognomonicな要因とは考えないもの,病因としての家族因ではなく,疾病による行動や体験が家族力動とかなりの相関をもつとするものなどさまざまである。
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