Japanese
English
展望
自殺の予防
Prevention of Suicide
稲村 博
1
Hiroshi Inamura
1
1東京医科歯科大学犯罪心理学研究室
1Dept. of Criminal Psychiatry, Tokyo Medical and Dental Univ.
pp.1136-1157
発行日 1973年11月15日
Published Date 1973/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405202096
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I.序文
わが国の自殺研究には,これまで予防とか治療という観点が欠落していたといっても過言ではない。昔からわが国は自殺王国などといわれ,その研究も多く手がけられてはきた。しかしその内容は,自殺の実態研究や思弁的理解などが主なものであって,予防や治療までにはほとんど及んでいない。また精神科医にとっては,加療中の患者の自殺予防については腐心しても,ほとんど手さぐりの素人に近い取り組みでしかなかった。またその患者に払う努力をより広範に拡げるとか,自分の仕事として社会的責任を負うことに対してはきわめて消極的であったといわざるを得ない。
こうした態度は,精神医学における他の辺縁分野,たとえばアルコール・薬物中毒者や犯罪者などに対する場合とも軌を一にしている。すなわち一応の良心的努力はしても早くから諦観に達し,または自分の職責としないのが普通であった。さらにわが国では,広く一般にこの種の「厄介者」を遇するには,拘禁や隔離を以てする以外に独創的な工夫や考え方は充分に思い浮かばなかったかに見える。こうした精神的風土からは開拓者的な対処や治療法の生まれ難いのは当然で,たとえば断酒会,非行少年や犯罪者への治療的対処(集団精神療法,心理劇,など),家族会,家族療法など,近年の収獲はいずれも欧米からの片面貿易に終始せざるを得なかったことを反省せざるを得ない。自殺の予防がまたその好例である。
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