Japanese
English
特集 痴呆の臨床と鑑別
偽痴呆
Pseudodementia
塩入 円裕
1
Enyu Shioiri
1
1塩入神経科
1Shioiri Mental Clinic
pp.424-428
発行日 1973年4月15日
Published Date 1973/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405202015
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I.はじめに
偽痴呆5)(仮性痴呆Pseudodemenz)ほど,あいまいな概念は少ないであろう。Wernickeにより提唱されたといわれるが,この語はほとんどガンゼル症候群(状態)(Ganser's Syndrorne,G.'s state)と同義(ことに日本の教科書では)に用いられている。Kraepelin, E. 9)にはガンゼルは記載されているが,偽痴呆はなく,かなり明瞭に区別しているのはJaspers, K. 6)であるが,そこではガンゼルを幼児症的態度とし,これを抑うつ,軽躁,錯乱などによる情緒鈍麻を知能障害と誤ったものであるとしている。また不知(Nichtwissen)を主徴としてガンゼルと区別しようとするBleuler, E. 3)などがあるが,本来明確に区別しえないものではなかろうか。
というのはこれと鑑別しなければならないものに,全生活史にわたる心因健忘(全般健忘7)allgemeine Amnesie,なおこれは完全健忘totale A. ではない),遁走(Fugue),ヒステリー昏迷,ヒステリー小児症(Prerilismus,なおこれはKraepelinは老人痴呆,器質障害における退行現象とみている),夢中遊行(Somnumbulismus)などがあって,これらがまたいずれ劣らずあいまいであり,よく見ると何か共通の防衛機制があるが,いずれにしても,身体的(中枢神経系の老廃や損傷)な基礎をもつ真正な痴呆とは著しく異なる。だから非科学的ではあるが,それ故にこそ最も人間臭い問題でもあるといえよう。
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