特別論文 精神医学の基本問題—精神病と神経症の構造論の展望
第15章 神経症諸論—森田とアドラーと新フロイト派
内村 祐之
1,2
1東京大学
2財団法人神経研究所
pp.1040-1049
発行日 1971年11月15日
Published Date 1971/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201816
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森田の立場とクレペリンやシュナイダーらのそれとの異同
前章の後半で私は,神経症異論と題して,クルト・シュナイダーの見解を紹介した。ここで異論と言った理由の一つは,幼児,小児期における精神的外傷や性格形成の失敗,乃至は社会的環境への適応障害などを,神経症発生の主因と見ようとする今日の力動精神医学または精神分析の立場に逆らって,シュナイダーの立場は,神経症の種類によっては,その生来性の精神病質的体質を原因的に重視するものであったからである。たとえば彼は,強迫神経症を,彼の分類した自信欠乏性精神病質人格からの発展と考え,また神経質やヒポコンドリーを,同じく彼の無力性精神病質人格からの発展と考えたのであった。
ところで神経症の症状の発展固定に至るまでのメカニズムを,力動心理学的に説明するとしても,多くの場合,その基礎に,生来性の異常な体質乃至性格傾向が,最も根源的なものとして潜んでいることを忘れてはならぬというのは,オーソドックスの精神医学者が一様に抱いていた伝統的な考え方である。それゆえシュナイダーの立場は,この古い伝統的立場の現在における代表者であると見ることができる。
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