特別論文 精神医学の基本問題—精神病と神経症の構造論の展望
第7章 ビルンバウムの「構造分析」を中心として
内村 祐之
1,2
1東京大学
2財団法人神経研究所
pp.20-28
発行日 1971年1月15日
Published Date 1971/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201693
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
精神病の構造分析への動き
精神病患者の示す病態を,観察するままに克明に記述し,これを多数例の経験によって整理して,単一病型を定めようとする努力が,思ったほどの効果を挙げず,ことに内因性精神病——ホッヘのいわゆる機能性精神病——に多くの不純型の観察されることから,新しい説明方法が要請されるに至り,その結果として,ホッヘらの症候群学説が生まれたことは,すでに第3章と第6章とで述べた通りである.そしてことに第1次世界大戦の際の神経症研究を契機として,症状相互間の内的関連や,症状の発生機構について考えるとともに,精神素質や人格の特徴までを考慮して,精神病像の構造をより詳しく,より合理的に理解し,その結果を精神病の体系化に役立てようという機運が新しく生まれてきた.
しかし,こうした考えをもつ研究者はすでに古くから存在していたのである.すなわちマイネルトやウェルニッケらがそれで,彼らは病像の内的分析に着手していたのであるが,その基礎となった彼らの考え方が,あまりにも一元的に,脳障害の結果としての精神病という作業仮説に傾いていたため,その後に発展した,神経症や機能性精神障害をも含む精神病全体の構造論としては不適当であるとして,あまり顧みられなかった.とにかく新しい構造論は,第1次世界大戦以後に急速に発達したのであって,ビルンバウムの言葉の通り,「戦争神経症の研究によって初めて病者の全構造の合理的分析が始められた」のである.
Copyright © 1971, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.