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「医療危機と精神科医」の特集に現代の精神科医療の基本的な性格として5点があげられている。第1に精神病者や精神病院は国家や独占資本にとって投資価値のないものとして医療分野の末端に位置づけられる。第2に私立精神病院は職員削減等徹底的な合理化の結果医療不在の収容施設に変質する。第3は国家が精神病院に期待する唯一の機能は社会防衛である。第4に経営危機においこまれゆく病院は病者を治療しないのみか手放そうとはしなくなる。第5に低所得と核家族化を理由に家族は病者を迎えいれる余裕をなくす。(松本雅彦・他,京都)。しかし,焦点を精神病院にしぼれば,第1は医療不在経済最優先のいわゆる儲け主義経営,第2は私立精神病院経営者の持つ封建性と病院の私物化,第3は経営管理を独占する精神科医の基本的専門知識の欠如,の3点が根本原因とされている(日本精神神経学会理事会)。しかし精神科医自身もその一半の責任は自分にあることに思をいたし,襟を正し精神病者の差別的診療を改め,道義心・倫理感を高めなければならないと反省される(大阪大学,阿部)。われわれは臨床の実践において,具体的にこの問いかけに答えなければならない。すなわち医学・医術・医道・医制の4方向がうまく調整されて,はじめて真の意味で高度の医療が実施できると考える。従来ともすれば大学精神医学が偏重され病院精神医学が通俗なものとされた。しかも院内における患者—職員の治療的人間関係(医道)は権威主義的であり,患者の人権は十分には守られていなかった。医制に関しても精神科医は無関心すぎた。これらの4方向から常に精神科医療の向上を吟味し,これに反する動きがあれば個人としても,学会としても,反省し改革すべきは改めるという運動を展開すべきであった。
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