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以下に掲げられる境界例についての四つの論文の内容を十分に討論するためにはかなりの紙幅を要するが,現在の私にはそれをするだけの勉強が不足しており,かつ物心両面の余裕もない。そこでここでは,境界例についてのシンポジウムの司会者を引き受けたときに漠然と私の念頭にあったものを明確化することを主として試みてみたい。そしてそのことと関連させながら四氏の論文にもふれることになるであろう。
境界例という場合,まず私が考えることは次のようなことである。これまではかなりまとまりのあるゲシュタルトを持つ診断類型というものがあって,それだけで大体の用は足りていた。したがって境界例ということがいわれるようになったのは,従来の診断類型のいずれにも属させることができない症例が見られるようになったという意味にちがいない。もっともふつう境界例という場合は,神経症と分裂病の境界にまたがるような症例を指すと考えられているようであるが,しかし分裂病といわゆる正常心理の境界にまたがるような症例も存すると考えてよいのではなかろうか。私がこのような考え方をするのは次の理由にもとづいている。すなわち通常われわれは,神経症者の世界はいわゆる正常人の世界に近いが,精神病者の世界はいわゆる正常人の世界から最も隔たったものであると感じている。これは正常心理と神経症と精神病をそれぞれ一直線上のスペクトルの上に位置させる考え方をわれわれが知らず知らず採用しているからであるが,この考え方は正常心理と異常心理との関係をあまりにも単純化しているもののように私には思われる。もし正常心理と異常心理をあえて線上に配列させるとするならば,この線は一直線ではなく,円周をつくるものでなければならないと私は考えたい。したがって神経症と分裂病の間にまたがる境界例があるとするならば,分裂病と正常心理の境界にまたがる症例も存しなければならないことになるのである。
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