特集 医療危機と精神科医—第6回日本精神病理・精神療法学会 討論集会をめぐって
精神科医療の荒廃とは?
辻 悟
1
1大阪大学医学部精神神経科
pp.105-107
発行日 1970年2月15日
Published Date 1970/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201569
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予告されたプログラムの変更のもとに開催された精神病理・精神療法学会の討論集会は,5月に開かれた金沢における日本精神神経学会総会に直結した脈絡の下にあることは,今さらあらためて述べるまでもない。金沢総会の総括は,一個の精神科医を精神科医たらしめている存在の地平の多様さに応じて多様であり,またそれが根源的に自己批判と自覚を問うものであるが故に,終結形になることのない重苦しい問いでもある。それは既存のものが既存であることによって力となること,およびこのような力をも含めて,精神医学の学そのものにおける,また精神科医療実践そのものにおける脈絡以外の力を無批判に受け入れ,あるいはそれに身をゆだねている精神科医の姿勢に対する鋭い告発であった。既存のものは既存のものであるということによって,しばしば大きい力となり,われわれに迫ってくる。したがって,既存のものに対する批判は,必然的に斗争という形において最も尖鋭化される。
精神科医療の危機が今ほど強く叫ばれた時代はなかったであろう。精神科医療の領域において,その危機をもち来らしめている既存のものに対する批判的な斗いは,外に向かって,内に向かって,また精神科医療の社会的地平において,一精神科医の精神科医としての,また人間としての自覚の地平において,様々に繰りひろげられねばならない。社会的な地平におけるこれまでの自覚の欠落は,金沢総会においてとくに鮮明に問われたところであった。
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