特集 医学教育と精神療法
第5回日本精神病理・精神療法学会大会シンボジウム「医学教育と精神療法」より
主題講演
精神療法教育の導入の1試案
黒丸 正四郎
1
1神戸大学精神神経科
pp.168-170
発行日 1969年3月15日
Published Date 1969/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201447
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はじめに
古代において,医術というものがいまだ呪術的役割を演じていたころから,すでに医療というものは施術者と患者との間に交わされる一種の治療的人間関係がその根底にあつたと思われます。近代になつて自然科学の進歩に伴い医療は生物学その他の基礎科学の応用ということにはしるようになりましたが,それでも医術というもののなかには,その方法論として単にNaturwissenschaftとしての医学だけでなく,Kunstとしての医術が生きていることは否めない事実であるかと思います。そしてそのKunstとしての医術こそ,「医療における治療的人間関係」にほかならないのであります。この点,医学は同じく自然科学の系列のなかにあつても,工学や理学などと根本的に異なるものといえましよう。この意味で,医学を学び医術を身につけ,医師となつてゆくための医学教育の過程のなかにおいて「医療における人間関係」の修練が必要であることは当然のことといえます。
ところが,かかる「医療における治療的人間関係」の教育はこれまでの医学教育課程のなかでは一定の課程または科目として教えられていないのであります。(もちろん,わが国において)それは多くの場合,臨床実習のなかで,自然に先輩から後輩へと無形式のうちに伝達され,教え込まれたものでありました。
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