特集 心因をめぐる諸問題
第3回日本精神病理・精神療法学会シンポジウム
はじめに
井村 恒郎
1
,
西園 昌久
2
1日本大学
2九州大学
pp.390
発行日 1967年6月15日
Published Date 1967/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201202
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
ご承知のように心因という概念はごくふつうに使われておりますけれども,その意味はかなりあいまいであります。私どもが精神科の1年生になつたころ,心因といいますといわゆる心因反応を考えまして,ごく一過性の異常状態,それも異常な境遇,あるいは不なれな境遇におかれたときに現われる一過性の現象,その個人の人格とは本質的にあまり関係のない,その個人はもともと正常者であるというような前提が暗々裡のうちにありまして,なにか異常体験に即して現われる直接的な反応というふうに考えておりました。
具体的にいいますと“昏迷状態”になるとか,あるいは“もうろう状態”になるとか,あるいは急激な“不安・驚愕反応”を呈するとかいうことを考えておりましたが,こんにちでは心因の概念はもつと広くなりまして,もつと長期間に現われる異常な状態をもたらす場合,たとえば異常人格の形成にかかわる心因をも含めています。そして必ずしも可逆的ではない異常状態たとえば非常にsensitiveな人柄ができるとか,あるいはまたneuroticな性格がつくられるというような心理的な発達(Entwicklung)にあずかる心因という概念も加わつております。これに関連して第3に,従来は非常に簡単にこの刺激反応図式で考えましたところの心因反応も,実はその個人がそうなるべくしてなつたような準備状態があつたのではないか,いわゆる準備因子ですが,そういう準備因子そのものは,前述の人格ないし性格の一面であつて,これも環境的な要因によつてつくられていくのではないかという考えかたに結びつきます。
Copyright © 1967, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.