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Hayman教授に初めて接したのはUCLA(University of California of Los Angeles)の研究室である。小柄で白髪の教授はおだやかな口調でありながら,初対面から積極的に日本の飲酒者の実態,治療方法とりわけ禁酒会の役割りなどについて質問を浴びせてきた。教授は,本著の出版で事足れりとするのではなく,今後も本著を基礎としてアルコールに関するあらゆる和識を求め,より完成した著書にしたいと強調した。
著者の言葉をかりれば,「近年アルコール中毒は医学酌な疾患と考えられるようになってきたが,この問題には非常に多くの社会的・法律的・職業的な側面を含み,これらもまた定義の中に含まれねばならない」のである。ロサンゼルスは他の大都市と同様にダウンタウンを中心として飲酒者や薬物依存者が多く,各界の注目を浴びているが,実際,ダウンタウンの裏街に足を踏み入れるといかに大きな社会問題となっているかが身をもつて体験できる。教授の立場は,たとえ彼らが欲すると欲せざるにかかわらず,治療の対象となるという立場をとる。そして彼らを治すという立場をとる以上,現段階では社会精神医学的なアプローチが第一義的なものである。とは言うものの,著者はこの分野のみで科学的なアプローチが完壁なものとなると考えているわけではなく,「アルコール中毒に関する見解」の章をとり上げてみても,疫学的見解,身体的見解,学習理論的見解,社会文化的見解,精神力動的見解,宗教団体からの見解といった風に多彩で,飲酒者の病理を各方面から追求し,学問的に有意義な成績や仮説はすべてとり入れ,飲酒者の病理を解明すべく努力している。教授の行なつている治療も考えられるすべての方法を用いているが,現在最も力を入れている方法は,集団精神療法と精神分析であり,前者にはとくに禁酒会の協力があずかって力あるもののようである。
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