- 有料閲覧
- 文献概要
本シンポジウムの最大の成果は,各発表者の貴重な研究の一端を知りえたこともさることながら,むしろ「創造と表現の病理」の原理論と方法論をめぐつて,さらには課題の選択と焦点をめぐつて,多くの問題がなおわれわれに残されていることを知りえたことではないかと思う。この意味でつぎに,われわれが今回あらためて示唆をうけたいくつかの具体的な課題の二,三を拾いあげることによつてまとめに代えたい。
創造と病いという総論的主題においても(Ⅰ部),病跡という各論的研究においても(Ⅱ部),また芸術療法という実践の場においても(Ⅲ部),創造になんらかの仕方で関与している「病い」についての精神医学的見解が,その研究を決定的に左右するようである。2,3の発表者が引用されたJaspersの「創造力が病いにもかかわらず現われたのか,それとも病いのためにこそ現われたのか」という設問のなかにも,すでに分裂病的過程に関するハイデルベルグ学派の見解が存することはいうまでもない。また同じく数名の発表音が引用されたDelay,Minkowski,Volmatを含めてフランス精神医学者の大部分は,分裂病を人格解体過程と見做し,この見解に立つて分裂病者における創造と表現を論じ,あるいは神経症者のそれとの根木的相違を力説色するのである(たとえばDelay)。それゆえ徳田,加藤,藤縄の諸氏の精神病(とりわけ分裂病)への芸術療法の諸報告は,二重の意味,すなわち一つには「日常的(病的)自我から脱自し,美的実践を契機として本来的(客観視できる)自我を発見してゆく」(宮本)という精神療法的課題,一つには「臨床精神精医学の次元で病跡学を展開し,とりわけ精神療法的に追求してゆく」(野村教授)ことによつて,さきの分裂病観を再検討し,また創造と病いの病跡を書き改めるという課題が隠されていると思う。
Copyright © 1967, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.