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Ⅰ.まえがき
従来の医学は病態を示す病者個人を対象とする医学であつた。精神医学もまたこの考えに従つている。近年,病態の発生におよぼす環境の役割が注目されるとともに精神障害の素因形成や発病状況に対する環境要因として,あるいは治療経過を左右する現実条件として,その家族が精神障害者におよぼす影響が注目されるようになつてきた。とりわけこの動向は分裂病の家族研究の型に集約されわが国でも幾多の研究が報告されているが,わが慶大神経科グループは主として精神分析的ないしは力動精神医学的方向づけにたつた精神医学的な家族研究を分裂病はもちろん,神経症,幼児自閉症,登校拒否,非行などの各家族群について総合的に行なつている。本研究"その1"および"その2"はこのような精神医学的家族研究の一環として行なわれたものである。
本報告は統計的な調査にもとづく知見と,いわゆる力動的接近から得られた知見の二つから成り立つているが,歴史的に見ると分裂病の家族に関して,その家族構成とりわけ父母の欠損についていくつかの統計的な研究が行なわれてきた。Pollock,Lidz,Oltman,Wahl,Gregory,Hilgard,Brill,らの研究知見を総合すると,1)分裂病家族は一般家族に比して父母の欠損率が高い。2)この統計に示されるような家族の統合性の障害や片親の欠損にもとづく親子関係の障害(たとえばsymbiosis,incestuousな関係,generation boundaryの障害)などが病者の素因形成や発病要因としてなんらかの病因的意義をもつのではないかという推測などからなつている。なかでもLidz,Wahlがその代表的なものである。
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