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■はじめに
精神分裂病の病因を脳の病理形態学的異常に求める研究は今世紀の前半までは盛んに行われ,多くの見解が提出されたが,そのほとんどは分裂病での特異性が証明されなかったために,この方面からのアプローチは廃れていた。1980年代以降になって,再び形態学的変化が注目されるようになったのは,CTやMRIによる形態,およびPET,SPECTなどによる機能画像診断法が導入され,分裂病脳での形態異常が報告されたことに負うところが大きい。当初,画像所見に対応する形で再び死後脳での検索がなされ,形態計測,統計処理,蛋白・分子レベルでの解析などの手段の導入から新たな知見が得られた。その中から導き出された有力で説得力のある仮説は,中枢神経系の発達障害に基づく形態異常である。分裂病が単一因子による疾患である証拠はなく,その症状や病態の多彩さ,遺伝負因の有無,経過の相違,治療反応性の相違などの多様性からは,むしろ多因子疾患である可能性を強く示唆している。脳の粗大な器質性疾患がしばしば分裂病様症状を呈することからみても病因の1つとして脳の病理形態学的異常を追求することは重要である。
分裂病の形態学的研究の対象領域はほとんど全脳領域にわたっているが,近年の研究の焦点は側頭葉内側部・辺縁系と前頭葉の2領域に向けられている。海馬領域を中心とする側頭葉内側領域の形態計測学的研究からは発達障害仮説が提唱された。一方,精神分裂病と前頭葉障害の関連はすでにAlzheimerやKraepelinの時代から指摘されている。前頭葉障害を示唆する分裂病の陰性症状に加えて,近年になって神経心理学,機能画像研究,神経伝達物質の研究,形態学的観察などから得られた多岐にわたる前頭葉の異常を示す知見が集積されるに及んで,前頭葉は側頭葉内側部・辺縁系と並んで重要な領域となった。特にここ数年は前頭葉が病理解剖学的研究の中心となっている。
この総説では分裂病の形態学的研究の概要と展望を述べる。最初に形態学的研究全体を紹介し,次いで側頭葉内側部・辺縁系と前頭葉の2領域に焦点を絞り,都立松沢病院と当部門の分裂病の病理形態研究グループによる研究成果も含めて紹介する。
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