回顧と経験 わが歩みし精神医学の道・5
ミュンヘンでの研究生活
内村 祐之
1,2
1東京大学
2日本学士院
pp.956-963
発行日 1966年11月15日
Published Date 1966/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201108
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留学先を決めるに当たつて,呉秀三先生は,「近ごろ若い人の行かないミュンヘンがよかろう」と勧めてくれた。私も,ここは,当時,精神医学のメッカと信じられていた所だし,またSpielmeyerの新著を,初心者ながら素晴らしいものだと思つていたので——それは,私の想像をはるかに超えて,不朽の名著と評価されるに至つたものだが——それに全く異存がないどころか,進んでそれを望んだのだつた。そして他の先輩連のように,あちこちを転々とせず,ここだけで終始しようと考えた。そこで,呉先生から,Bumke教授とSpielmeyer教授とに宛てた紹介状を書いてもらつて,出かけたのである。
ところで,私の卒業から留学へかけての1923〜5年のころの,ドイツ語圏の精神神経学界には,重要な研究が相次いであらわれ,今日から顧みても,空前と言うべき時期であつた。思い付くままに,その2,3を拾つてみると,まずEconomoの嗜眠性脳炎の発見が1917年で,それに続く後遺症の問題は,錐体外路とその神経核の機能の研究を盛んにする契機ともなつたが,これに関係のあるVogt夫妻の画期的の研究,『線状体系の疾患の病理』が出版されたのは1920年のことである。また,後にノーベル賞を得たWagner-Jaureggのマラリヤ療法の発見は1922年で,これに引きつづく10年間,この問題の追試討論に,学界は大にぎわいを呈した。
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