特集 精神分裂病の“治癒”とは何か
第1回日本精神病理・精神療法学会シンポジウム
精神分裂病の「治癒」の精神病理学的基準について
石川 清
1
1東京大学精神科
pp.212-215
発行日 1965年3月15日
Published Date 1965/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405200817
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Ⅰ
このシンポジアムの標題のなかの括弧には,複雑な意味がこめられているように思われる。
精神分裂病に対して薬物療法や精神療法,作業療法,あるいは社会復帰療法などの,広い範囲にわたる治療法が行なわれているこんにちでも,精神分裂病はそもそもなおるものなのか,それとも不治なのか,という古くからくりかえされてきた問いの前で,われわれはしばしば返答に窮してしまう。それどころか,この病気に対する医学的,精神病理学的認識が進むにつれて,この二者択一の苦しみはますます深まつてゆくように思われる。また,欠陥分裂病という命名,欠陥治癒という言葉は,現在の精神医学では意識的に忌避されているが,陳旧性の分裂病において,本当にこの欠陥治癒とよぶべき,そうとしか名づけがたいような固定状態が存しないか,換言すれば,どんな長い経過をもつ分裂病者も,治癒に向かう弾力性をつねに内に秘めているとみなされるべきか否かということも,やはりいちがいに決めがたい事柄である。われわれが臨床の場面で「欠陥○○」という言葉を用いたがらないのは,過去の精神医学において,それらがあまりに強調された結果,うつかりすると先入見によつて,観察の固定化をまねき,予後の判定を誤り,治療の意欲を減退させ,ひいては患者の人間性を見失つて病気しかわからなくなる——そうなりかねないから注意しなくてはならない——という道徳的配慮ないしは精神科医としての防御の構えがそうさせている場合もある。したがつてここではあらためて医学的検討が必要になつてくる。
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