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Ⅰ.序
精神医学の医学としての発展の歴史をかえりみると,脳の病理形態学がその基礎的研究の主流をなしていた長い時代があつた。Griesingerの「Geisteskrankheiten sind Gehirnkrankheiten」といつた標語(1845)は,その病理組織学的研究への拍車であつた。そして当時の指導的精神医学者は,自ら脳の組織病理学的研究を行なうか,あるいは,すぐれた組織病理学者と共同で研究に従事した。前者の代表としてはNissl(1860-1919)やAlzheimer(1864-1915)があげられるであろうし,後者の代表はいうまでもなくKraepelin(1856-1926)であつた。
Kraepelinがその豊富な臨床経験の資料を整理して,精神疾患の分類を樹立すべく努力するにあつては,NisslとAlzheimerによる組織病理学的研究業績が大きな力となつたことは周知のことである。Kraepelinは,Munchen大学の精神病学正教授として,その教室を主宰していただけでなく同地に精神疾患全般の基礎的研究を綜合的に推進する目的をもつて,研究所を創設した。その研究所の呼び名は,脳研究所Hirnforschungsinstitutではなく,精神医学研究所Forschungsanstalt für Psychiatrieであつた。その創成期には,それはMünchen大学の精神医学教室の一部に開設されたということである。その研究室にはAlzheimerがいたし,やがてNisslやBrodmannが招かれた。そして,NisslとAlzheimer自身の研究業績,さらにかれらの指導のもとにその弟子たちによつて達成された成果は,Nissl-Alzheimers Arbeitenとして集大成されて,精神医学における当時の組織病理学的研究の全貌が紹介されたといつてよい。
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