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Ⅰ.はじめに
催眠の精神生理学的研究の一環として,さきに催眠のMinor Tremorにおよぼす影響について報告したが,今回は催眠下における脳波について検討したところを報告する。脳波による催眠の研究は,Loomis(1936)9),BlakeとGerard(1937)2)らによつて着手されて以来,多くの実験結果が発表されつつある。そのおもなる方向は,(1)睡眠時の脳波と催眠時の脳波の比較(2)覚醒時と催眠時の脳波の比較的考察である。BarkerとBurgwin(1946)1)は,暗示によつて催眠性睡眠を生起させ,正常の睡眠と比較不可能な程度の脳波の変化を報告した。TrueとStephenson18)はこれを追試して,この結果とはまつたく反対の結果をえている。藤沢(1958)は催眠中に,自然睡眠によく似た脳波のえられることを発見し,GillとBrenman10)は諸家の催眠と睡眠に関する脳波的研究の結果を検討して,催眠は深い睡眠ではない。またふつうの覚醒状態とも異なる。催眠の被験者は夢をみている人(dreamer)とよぶことができると述べている。催眠時と覚醒時の脳波については,Dynes(1947)4),Loomis(1936)9)や小熊,工藤,藤森,本間(1949)12)らは,両者間に差異がないと報告し,Darrow(1950)3)らは,異なつた部位から誘導した脳波の位相において,両者間に差異があるといい,山岡(1957)19)は催眠時には脳波が不規則となり,またとくに後頭部のα波が減少することを報告している。このように催眠研究のもつとも基本的課題が,まだ結論をえていない状況にあり,また多くの実験において,催眠の深度に関して考慮がなされていない。一律に催眠といつても,Wolbergが4段階に区分しているごとく,その深度には種々の差異があらねばならない。この事実を無視した実験は,いかに厳密に操作されたとしてもその結果は意義少ないものとなるであろう。また同じく脳波の変化を論ずる場合に,従来のごとく単なる観察によるよりも,周波数分析を行なつたほうが,より定量的な変化をつかむことができるのである。わが教室においては,柴田15)がこの問題についてすでに研究を行なつているが,さらにこれを発展させて,催眠の浅い状態と深い状態における脳波の比較を頭頂部と後頭部の双極誘導による脳波の自動周波数分析法によつて行ない,また顫光刺激による妨害条件の設定という新たな観点から実験をこころみたものである。
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