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I.緒言
ChlorpromazineがH. Laboritらによつて人工冬眠に応用され,J. Delayら(1952)によつて精神障害者の治療に導入されて以来,精神分裂病者に対する治療はいちじるしい変革を遂げている。向精神薬の発展と臨床的経験がかさねられるにつれ,従来精神分裂病者に対する治療体系に重要な位置を占めていた衝撃療法に代わつて,向精神薬の治療的意義が認められるにいたつた。とくに最近は陳旧かつ慢性経過をたどる症例で,向精神薬の投与により著明な反応を呈するものがかなり見受けられる。そして,従来の概念によるいわゆる欠陥状態におよぼす向精神薬の影響をみると,不可逆的な概念に疑義を感ずる場合も少なくない。またともすれば身体療法に限局されがちであつた精神分裂病者に対する心理的状況の重視と,診断価値の変遷,開放的状況化の確立,生活療法,レクリエーションおよび作業療法などの精神療法化は,単に脱社会化過程にある精神分裂病者の精神荒廃を防止するという消極的な意義だけではなく,進んで社会性・生産性の獲得およびその発展と維持に有力な手段となることが期待されるようになつた。そしてわれわれのいままでの臨床的経験をふりかえつてみると,向精神薬は,広義または狭義の精神療法を可能ならしめるというだけではなく,精神分裂病者の心理的身体的変化が薬理的効果との間に相補的に作用し合い,両者の効果をより高めるものではなかろうかと推定される。
従来精神分裂病に対する向精神薬の効果については多数の報告がある。しかしわれわれがあえてかさねてここに報告する理由は,このような仮定の上に立つて精神分裂病者のおかれている心理的状況を考慮しつつ,若干の向精神薬の効果を,慢性経過をたどる症例につき検討し,精神分裂病者の治療体系における向精神薬の役割を考察した点にある。
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