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Ⅰ.まえおき
1948年から1950年にかけては日本脳炎の全国的な大流行があり,そのときの悲惨な状況については種々の報告があるし,また私たちの記憶に新しい。その後の患者発生の模様は,かつての大流行のときほどではないが,しかしいまなお7〜9月の流行期にはいると,かなりの患者が発生している17)。その治療としては,最近では種々の化学療法剤やホルモン剤が用いられてその効果が論議され,またγ-グロブリンによる受働免疫の方法などがあつて,治療成績が改善されているが,しかしまだ致命率は高く,また生命をたもちえてもかなり高度の後遺症を残すものが多い13)。そこで本病の予防が重視され,ウイルスを伝播するところの蚊の撲滅が行なわれてきたが,近年にいたりワクチン接種による個人的予防法も用いられるにいたつた。しかし現在行なわれている予防接種には,神経組織乳剤を含むワクチンが使用されている18)。そこでこのようなワクチンを人体に接種した場合,副作用の問題がおこつてくるのは当然である。
周知のように,このような問題は狂犬病ワクチンに関しても古くからあつた。すなわち,1885年Pasteurによつて狂犬病予防接種が発見されるとまもなく,その副作用として精神神経障害がみられるようになつた(Gonzales 1888)。これはいわゆる「後麻痺」とよばれるもので,それに関しては従来幾多の記載をみており,現在もなおこの後麻痺をいかにして克服するかということが大きな課題とされている。しかし後麻痺は予防接種をうけた全例にあらわれるのではなく,その一部にしかみられないことから,その原因についていろいろ議論がなされている。これには,古くは変性狂犬病説,中毒説,固定毒感染説などがあつた。一方,狂犬病予防接種後麻痺でみられる病変は,主として白質をおかし,髄液腔ことに脳室壁に密接した局在をもち,左右ほぼ対称性の,きわめて広範囲にわたる脱髄性脳脊髄炎であることが明らかにされ15),それが多発硬化症の病変に類似していることが注目された。また多発硬化症の一つの研究方法10)として,実験的脱髄脳脊髄炎——アレルギー性脳脊髄炎の研究が行なわれているが1)8)9),このような実験的研究においては,接種される神経組織乳剤が抗原の重要な成分であることが明らかである。そして,これら実験的脱髄脳脊髄炎は狂犬病予防接種後麻痺と類似していることはいうまでもない。かくて,こんにちでは,狂犬病予防接種後麻痺は,神経組織乳剤を接種することによつておこるアレルギー性脳脊髄炎であると考えられるにいたつた。
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