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辰沼1)はさきに精神病質者の相当多くのものに親への依存攻撃関係があつて,それが彼らの非行の合理化に役だつていることを示した。彼らの特徴とするところは心理的な親結合が,成人後までも持続しており向自我性が強く(Kahl2)),ために他人の利益を考慮する余裕がなく,したがつてその行動は自己中心的であつて,親から絶対的愛情を要求し,矯正不能の自己偽瞞によつて親を攻撃するというような小児的心性が持続しているということである。そのために周囲のものから恐れられ,いみきらわれているということが,彼らをいつそうひがませ,反抗の理由をつくるという悪循環が生ずる。彼らは親から理解されたい,愛されたいと思うのであるが,親を理解し,親を助けようという積極的な意欲はなく,建設的生産的な目標に対してまつたく受動的,恣意的である。親と子の間に意志,感情の断層があつてたがいに相手を理解しえていない。親は子供をまつたくわがままな乱暴者としか思つていないし,子供は親のことを理解のない頑固者というふうにしか思つていない。そのくせ子供は親に反抗攻撃するということ以外の意志表示をしていない。親は子供の心を当然わかつているという先入観があつて自分の気持を知つていながら自分を悪く扱うというふうに考えているのである。
前掲の論文において著者はその親への攻撃機制をつぎの3型に分けた。すなわちⅠ.自己の知能,性格,とくにその社会的適応性の乏しいことを自覚し,ふかい劣等感をもち,それを親の教育,躾の故として親を攻撃するもの。Ⅱ.社会的非行がすでにあつて,それに対する親の意見,叱責が彼らの劣等感と,実際には空虚な自負心を刺激して攻撃機制がおきるもの。Ⅲ.幼少時の親の冷遇,無理解な——本人がそう思つているかぎりの——躾,叱責に対して意識的な復讐を誓うものである。彼らの両親の中には相当に性格偏倚があつたり,家庭内での行動や子供に対する態度がいちじるしく適切でないものもあつたが,多くは子供の側に極端な性格偏倚があつて,親の態度は単に彼らの非行の合理化や自己偽瞞への手がかりを与えるにすぎないものが多かつたのである。しかしその後症例を増し,調査,考察を進めた結果,子供の人格よりむしろ親のほうに多くの問題を含むと考えられるものもあり,本稿はその点についてふれてみたい。
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