Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
わが国では,1998年,当時の経済状態の悪化を背景に自殺が急増し,以来,年間3万人以上の自殺者を数えるという高い水準が続いている。自殺問題は,国家をあげての課題とされ,精神医学の果たす役割が大きいものと期待されている。その根拠として,自殺に至るものの多くが精神疾患に罹患しているとの調査結果が挙げられ,精神疾患に対する治療的介入が自殺予防に寄与するものと考えられている。
一方で,昨今の自殺増加の背景として経済の悪化が指摘されていることからも,経済状況をはじめとする社会要因,あるいは個人における心理要因もまた,自殺のリスクとなる。したがって,改めて指摘するまでもなく,個々の自殺の背景は多面的であって,自殺予防の手段を一様に論じることは困難であり,予防のためのアプローチもまた,自殺の背景に応じた多様性が求められる。
一般に,個人が社会,心理的なストレスにさらされ,さらには精神疾患に罹患したとしても,自殺に向かうものと,向かわないものがいることの事実を考慮すると,精神疾患や心理社会的要因との関連から自殺を論じることには限界があり,そこには自殺に至りやすさ,すなわち個体が有する自殺の脆弱性が介在していると考えられる。一般に,脆弱性の主体は生物学的要因であり,そこには個体に働きかける生育史をはじめとする環境要因も影響すると考えられる。このような,個人が有する精神疾患とは独立した自殺の脆弱性に関与する生物学的要因を明らかにしようとする研究がなされてきている。研究結果はいまだ断片的であって,その成果を臨床にフィードバックするにはまだ多大な時間と労力を要するが,本稿ではこれまでの研究経過とその現状につき解説する。
Copyright © 2009, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.