Japanese
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研究と報告
戦後10年間における神経症的葛藤の推移について
Changes in the Content of Neurotic Conflict during Ten Years after World War Ⅱ
中川 四郎
1
,
江熊 要一
1
,
沼部 敏夫
1
,
桂 あぐり
1
,
神岡 芳雄
1
S. Nakagawa
1
,
Y. Eguma
1
,
T. Numabe
1
,
A. Katsura
1
,
Y. Kamioka
1
1群馬大学精神神経科
1Department of Neuropsychiatry, Gunma University, School of Medicine
pp.17-21
発行日 1960年1月15日
Published Date 1960/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405200174
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昭和22年(1947)から昭和31年(1956)にいたる10年間に診療した心因性精神神経疾患の中で,発症の契機となつた心的葛藤の明瞭なものを,各年度ごどに50例宛無作為に抽出し(ただし昭和22年と23年は全例使用),総数44S例を資料としてその葛藤の種別の各年度ごとにおける割合を算出し,その変動の様相から,これを3期に分け,22〜25年を第Ⅰ期,26〜28年を第Ⅱ期,29〜31年を第Ⅲ期として,各葛藤の出現率を推計学的に検定しつぎの結果をえた。
(1)家族葛藤はⅠ期からⅡ期およびⅢ期において著明な増加がみられ,とくに第Ⅲ期の増加は中年の家婦において顕著であり,その内訳をみると嫁姑間の葛藤が増加していた。
(2)愛情(性的)葛藤はⅠ期よりⅢ期において増加し,中年の男性にその傾向がみられた。
(3)経済葛藤はⅠ期に多く,これは41才以上の男子において著明であつた。その内容も戦後の社会的経済的変動に密接に関係する右のであつた。
(4)職業葛藤はⅠ期に多いが,これは25才以下の青年男子に多くみられた現象である。
(5)身体葛藤はⅠ期に比べⅡ期,Ⅲ期は激減しているが,Ⅱ期の減少はとくに女子において著明であつた。
(6)道徳葛藤は各期の間に有意の差が認められなかつた。
以上の成績は心因性の精神神経障害発現の契機となる心的葛藤の内容が,顕著に社会的文化的環境を反映していることを示すとともに,その統計的処理のうえからみた変動に対応してかりに区分した3つの時期が,戦後の混乱期,不況期,回復期とほぼ一致していることは,社会精神医学上興味あるところである。
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