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同性愛者が同性愛のみを主訴として医師を訪れることはほとんどないといわれている。それは若干の苛責を覚えながらも,倒錯行為を享楽し,グループを形成して,その中で自分たちは治らないものだと信じさせられているからだという。しかし自己の倒錯を悩みとする患者が来院することもないわけではない。ここに報告する5例は,いずれも神経症的症状を主訴として来院し,なんとかして治したいとの欲求から自分の異常を進んで告白したもので,各症例とも私が綜合病院である北野病院神経科に勤務していた約3年間に観察したものである。
神経症と性的倒錯との合併についてはFenichelが論及しており,(1)性的倒錯と神経症が並行して発展するもの,(2)神経症がはじめにあつた性的倒錯を複雑化するもの,(3)性的倒錯がはじめにあつた神経症に加わるもの,の3つの場合をあげ,合併例のほうが治療成績がよいことを指摘している。実際にはこの図式的な分類はほとんど不可能で,私の症例では両者のいずれが先とは決定し難いが,両者相まつて相乗的に患者の苦悩を増大している様相,あるいは自分の同性愛傾向について一層強迫的に苦悶している様相が観察された。しかし神経症症状があつたからこそ長期の面接が可能となり,そこから不完全ながらも治療への手がかりが得られたといつてよいと思う。一般に体質的同性愛者だけでなく神経症的同性愛者においても,一応の治癒ののち,なお正常の範囲を越えて同性愛的性体験が残るということが精神分析の文献例にもみられ,同性愛の発現には先天的,体質的要因は否定できないものと思われる。Freudは「性倒錯は両性的な素質をうけているということが考慮されるが,ただわれわれはこの素質が解剖学的形態を越えてどこに成立するのかがわからない」として,体質的要因を全面的に認めているように思われる。またBossは「体質的に男性と女性との分化がはつきりしていない型」においてのみ同性愛が現われることを強調している。
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