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はじめに
明治以来,97年間続いてきた監獄法を抜本的に改めた「刑事施設・受刑者処遇法」が,2006年5月に施行された。主な改正点として「受刑者の権利義務・職員の権限の明確化」と「行刑運営の透明性の確保」にならび,「受刑者の社会復帰に向けた処遇の充実」が謳われている。これは,それまで「作業中心」だった受刑者の処遇を改め,強化指導・改善指導を規定し,社会生活に必要な知識・生活態度を習得させるための一般的な指導や薬物依存,性犯罪再犯防止指導,被害者の視点を取り入れた教育,交通安全指導などの特別な指導を行うことを定めたものである。SST(social skills trainings;以下SST)はこの指導プログラムの一環として各地の刑事施設で導入されるようになった。
一方,田島ら1)は全国15の刑事施設におけるサンプル調査を行い,410人の知的障害者を抽出し,犯罪時無職であった者が80.7%に及び,またこれらの80%が満期出所者であり,43.5%が帰住先不明,1年以内の再犯率は60%に上ることを明らかにした。
これらの知見から矯正と保護,厚生労働機関の連携が重要視されるようになり,刑事施設にソーシャルワーカーが配置されたり,保護観察所の職員が,収容中から釈放後の住居,就業先その他の生活環境の調整を行うようになってきている。また2006年度からは法務・厚生労働省の連携による「刑務所出所者等に対する総合的就労支援対策」が実施されている(図1)。このような社会的背景のもとに,SSTが近年司法領域で活発に行われるようになった。
司法領域においてSSTが現在行われている主な機関および組織は,少年院,刑事施設,保護観察所,更生保護施設などであるが,対象および実施体制,内容は実施施設によりさまざまである。SSTの主たる担当者は,少年院では法務教官,刑務所では刑務官,保護観察所では保護観察官であるが,民間臨床心理士が雇用されているプログラムもある。またSST普及協会の会員がプログラム担当講師として多くの司法関連施設に協力支援を行っているところである。筆者自身は近畿管区内の刑事施設や保護観察所で社会適応,就労支援,覚醒剤防止,性犯罪防止プログラムのSSTに関わらせていただいている。本稿においてはその経験に基づき,精神科医の視点から,司法領域のSSTの実際について述べることとしたい。
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