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はじめに―社会生活技能訓練の目指すもの
社会生活技能訓練(social skills training,以下SSTと略す)は,広くなんらかの社会生活の困難を持っている者に対し,社会生活技能(social skills,対人スキル,社会的スキルなどとも呼ばれる)の不十分さをその原因と想定して,学習理論を基盤にその(再)獲得を目標とする介入である。したがって対象は,統合失調症をはじめとするさまざまな精神障害や発達障害,知的障害などであり,さらに今日では,子どもの学校での適応支援や触法者の矯正教育などに広く普及してきている。
その中で統合失調症を対象とするものは,1970年代より認知行動療法の技術を用いた体系的なプログラムが形成され,介入研究が多数報告されてきた。統合失調症はそもそも社会機能の低下がその本質的特徴であり,社会生活技能の不足がみられるが,ストレス-脆弱性モデルの中で,社会生活技能はストレスへの防御因子と位置づけられる。したがって不足する社会生活技能を同定して,SSTを用いてその学習を行うことで,社会機能を高め,再発脆弱性を低下させることが期待されている。また服薬を確実に持続するためのスキルなど,疾病管理にかかわるさまざまなスキルも防御因子として重要であり,SSTを用いた服薬自己管理モジュール,症状自己管理モジュールなどが開発されている。さらに,統合失調症において家族心理教育は再発防止効果が実証されているが,その中でSSTは家族の対処行動を高める介入技術として用いられる。就労など,特定の社会的な活動のためのスキルを獲得するためにもSSTは用いられる。
これまで述べてきたように,SSTは統合失調症の人が持つ社会生活の困難さに対処するためのスキルの獲得が直接の目標であり,環境との相互作用,行動分析などのダイナミックな介入が行われるが,時間軸からみれば数か月の単位で行われる介入プログラムであり,人生とともに推移する長い経過を持つ統合失調症の時間軸からすれば,短期的な視座のもとで行われるものである。しかしSSTをはじめとして,さまざまな心理社会的プログラムに共通しているのは,当面の困難の克服への介入を行いながらも,より長期的に社会生活を改善し,本人の自尊心や人生の満足を回復することを目標としている点である。すなわち客観的には長期予後の改善であり,本人の視点からすればリカバリーの獲得である。本論ではまず,短期的な介入による効果を検証し,そうした短期的な介入が長期にはどのような影響を及ぼし得るかを考察していきたい。検証・考察と使い分けたのは,前者では多くの介入研究があるからであり,後者はそれが乏しく,しかし臨床現場では長期目標のもとで介入が行われているからである。こうしたevidence-real world gapについても簡単に触れたいと思う。
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