書評
―水野雅文 編 野村総一郎,中村 純,青木省三,朝田 隆,水野雅文 シリーズ編集―これからの退院支援・地域移行
羽藤 邦利
1
1代々木の森診療所
pp.92-93
発行日 2013年1月15日
Published Date 2013/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405102368
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本書には,長期入院患者の「退院促進・地域定着支援」の実践報告がたくさん収載されている。精神科病院8施設,精神科診療所2施設,社会福祉法人1施設,就労継続A事業所1施設からの報告である。
「退院促進・地域移行」と言うと,厚生労働省が2003年から始めた「精神障害者退院促進支援事業(精神障害者地域移行・地域定着支援事業)」(通称“退促”事業)を思い浮かべる人が多いと思う。“退促”事業は,社会的入院72,000人を10年間で解消することを目標に,都道府県ごとに相談事業所(ほとんどが地域活動支援センターを併設)を主な実施主体として取り組まれたものである。2003~2009年の7年間では,事業対象者数7,903名,退院患者数2,825名であった。実績数は少ない。しかし,数には表せない大きな成果があったと言われている。相談支援事業所の職員が精神科病院に出向き,病院職員と一緒に対象患者に働きかけ,「退院する気がない」患者を退院する気にさせ,退院準備,退院,地域定着に至る。地域定着までには,どのケースも1~2年掛かっている。その間,病院,家族,地域の関係者を巻き込んだ波乱万丈のドラマがあったと聞く。“退促”事業を通して,相談支援事業所の職員はとても力を付けた。さらに,相談支援事業所を核にして,精神科病院,診療所,保健所,福祉事務所など地域の社会資源のつながりがつくられた。実績数は少なくても,“退促”事業は精神障害者を地域で支える基盤をつくった。
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