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今から10年前,「抑うつ」は治療が簡単な病態とみなされていた。当時,治療の主流となっていた選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)はQOLに悪影響を及ぼすような副作用が少なく,抑うつ症状だけでなく,さらには不安にもその効果のスペクトラムが広がったためである。しかし昨今,「抑うつ」との主訴ながら治療者が難渋する例をよく目にする。抗うつ薬治療が時として負の転帰をもたらす病態があることも分かってきたし,双極性障害への関心も高まってきた。そのような中で今回のズバリ「鑑別を究める」と題された本書を,一気に読んだ。また医局に本書を置いていたところ,何人もの医局員が関心を持って読んでいた。
本書は編者である野村総一郎氏が今最もこだわり,かつ究めたいと思う内容と推察できるものであり,執筆者も各サブスペシャリティのエキスパートたちである。編者自身による「序論:抑うつ診断の難しさ」における本書の論点の整理,さらには気鋭の杉山暢宏氏による「抑うつの精神医学的意味」における,「抑うつ」というものの原点に戻って診断・治療について再考するという作業。まず,この2章で頭が整理された後に,鑑別となる多くの疾患について,「抑うつ」症例を詳細に呈示している。さらに,最新のDSM-5を用いて診断基準を説明するだけでなく,鑑別のポイントや診断のためのツールまでも紹介している。統合失調症や発達障害,パーソナリティ障害,身体疾患,児童思春期の疾患から高齢者のアルツハイマー病に至るまで,「抑うつ」を示し得るほとんどの疾患が網羅されている。どの章も図表を用いて非常に分かりやすくポイントが示されている。また治療を含めた対応についても具体的に記載されており,読者に優しく手を差し伸べている。
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