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はじめに
緊急措置入院とは,急速を要し,規定による手続(2人以上の指定医が診察すること,診察に当該職員が立ち合うこと,家族などに通知をし診察に立ち会わせること)を採ることができない場合において,指定医をして診察をさせた結果,精神障害者であり,かつ,ただちに入院させなければ精神障害のために自身を傷つけまたは他人を害するおそれが著しいと認めたときは,国もしくは都道府県立の精神病院または指定病院に入院させることができる規定である9)。
緊急措置入院では通常の措置入院よりも簡略な手続で措置権限を行使するものであることから,通常の措置症状よりも自傷他害のおそれの程度が「著しい」と認められる場合でなければならないとされている。精神保健福祉法詳解などでは,症状が急迫し,自殺しようとして未遂に終わった場合や,他人を殺害した事実がある場合などは,著しいという要件を満たす場合に該当すると解釈されている9,10)。しかし,これには異論があり,自傷他害のおそれの著しさは,必ずしも自殺未遂や殺害などの過去の行為の重大さを意味するのではなく,むしろ自傷他害のおそれと密接な関連にある精神障害の症状急迫に規定されるところが大きいという意見がある6,7)。このように緊急措置入院における措置要件,特に自傷他害の「著しい」おそれの解釈については意見の相違が大きいが,どのように解釈するのが適切なのか実態に基づいて検討する必要がある。
緊急措置入院の規定は,1965年の精神衛生法改正により新設されたものであり,精神症状の発生は突発的な場合が多く,措置入院に規定されている手続をとる間に急迫症状が起こった場合の応急の措置として定められたものである4,9)。しかし,緊急措置入院の運用の実態については,都道府県によってばらつきがきわめて大きく,1995年度でも緊急措置が機能している自治体は調査した41都道府県のうち26に過ぎない2)。また,全国の緊急措置入院の過半数を占める東京都でも,緊急措置入院が増加し始めたのは1987年の措置入院の激増以降であり,緊急措置入院に由来する措置入院の割合が措置入院の過半数に達したのは1997年度である8)。緊急措置入院は精神科救急の事態に対応するものとして導入されたが,実際の運用には地域差などの問題点があり,緊急措置入院が精神科救急としてどのような役割を果たしているか実態に基づいて検討する必要がある。
我々は措置入院に関して実証的な研究1,5)を開始しているが,栃木県で実際に緊急措置入院となった患者を対象に,その問題点と臨床的な意義について,特に上述した緊急措置入院の措置要件と精神科救急における役割に注目して検討し,興味のある結果を得たので報告する。
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