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はじめに
2010年6月29日に閣議決定された「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」7)は医療の課題の1つに「精神障害者に対する強制入院,強制医療介入等について,いわゆる『保護者制度』の見直し等も含め,その在り方を検討し,平成24年内を目途にその結論を得る」を挙げている。日本精神神経学会のプロジェクトチーム5)は,この「6月29日閣議決定」を受け,取り組むべき課題に関する意見を公表した。課題の1つは非自発的入院・非自発的治療介入の要件の明確化および適正な手続きである。
精神障害者の非自発的入院としては精神保健福祉法の措置入院,医療保護入院,応急入院と並んで医療観察法(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療と観察等に関する法律)による入院が含まれる。精神保健観察下での通院処遇も併せ,医療観察法を強制(非自発的)医療介入とみなすことができる。都道府県知事の権限による措置入院と異なり処遇の命令や解除は裁判所の決定に基づき,より強い強制性を持っている。
医療観察法の施行から6年以上が経過した。2010年12月31日までに申立て総数が2,029件を数える一方で,退院許可もすでに677件に達した11)。今後,退院および医療観法による医療の終了(以下,処遇の終了)は着実に増えて行くであろう。法の定めにより,入院の要件の消失をもって退院となり,医療観察法による医療の要件の消失をもって処遇の終了となる。ということは,退院許可と処遇の終了に関する裁判所の決定に際して,入院などが命じられる要件,言い換えれば個人の自由を制限することの根拠が改めて検討事項となる。加えて,その後の社会復帰の成否により,裁判所の決定が適切であったかが事実によって検証されることになる。
現在,医療観察法のもとで質の高い医療が提供されている。しかし,手厚い医療であるから強制されてよいわけではない。強制を正当化する理由が明確にされ,適正な手続により法が運用されなければ個人の人権が侵害される。医療の強制性は本制度の根幹をなすものである。筆者はかねてから医療観察法を十分な議論を経ない拙速立法とみなしてきた。つい最近の障がい者制度改革推進会議はかなりの時間を措置入院と医療観察法に関連する質疑に費やしているが,議事8)を一読した限りでは,相変わらず振り出しの議論が続いている感がある。
小論では医療観察法の制度が直面する課題について退院と処遇の終了に焦点を当て,比較のためアメリカのニューヨーク州の判例と制度改革にも触れてみたい。
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