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はじめに
統合失調症における死後脳の組織病理学的な解析は,疾患概念が確立されて間もなく,古典的な組織染色法を用いて進められた。しかし,明らかな細胞の変性・脱落などが認められず,特異性および再現性のある所見が得られない状態が長く続き,「統合失調症は神経病理学者の墓場」とまでいわれた23)。このような状況は,形態の質的評価を行う従来の組織学的方法の限界と,脳内変化を明らかにするうえでの明瞭な作業仮説の欠如などに起因していたと考えられる。ところで,1990年代から急速に進歩した神経科学により,行動や認知を担う脳内領域が同定されるようになり,その機能を支えるニューロンや分子についての知見も飛躍的に増加した。統合失調症についても,その症状や障害に対応した脳部位に焦点を当てた脳画像研究から,構造や機能の変化を示す所見が多く報告されると同時に,そのような変化の背景にある細胞や分子レベルにおけるメカニズムについても仮説を立て検証することが可能となってきた。現在では,定量的な形態計測の方法であるステレオロジーや分子生物学的方法を適応した新しいタイプの死後脳研究が盛んに進められつつある。このような研究から得られた知見は,それぞれの症状や障害に対応した細胞・分子レベルのメカニズムを明らかにしつつあり,それに基づいた新規治療法の開発も進んでいる。
ピッツバーグ大学精神医学部門には,23年前にTranslational Neuroscience Program(http://www.tnp.pitt.edu)が設立され,精神疾患を対象にした死後脳バンクの整備が進められてきた。ここでは,統合失調症で機能障害が想定される背外側前頭前野皮質における細胞・分子レベルの変化について,我々のグループによって明らかにされてきた知見を中心に紹介し,その機能的意味について考察したい。
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