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最近,ある高名な神経内科医の著書を読んでいて,引っ掛かるところがあった。要約すると,「一時代前には,どちらかというと神経内科医たちが種々の症例や経過に共通する特徴や共通に役立つマニュアル的な治療法をみつけようという自然科学的な考え方をし,精神科医たちは個々の症例を大切にし,個別にその背景にあるものをみつけようとしていた。しかし,最近では,むしろ精神科医のほうがよりマニュアル的な対策をみつけようとするようになってきて,個別性を大切にして対応しようとする考え方が忘れ去られようとしている。今後は,神経内科医が以前に精神科医たちがやっていたような個々のケースに個別に取り組もうとする立場に戻るべきではないか」といった内容である。もちろん,この著者は精神科医と神経内科医の優劣を論じているのではない。私としては,素直には首肯しがたいところもあるのだが,近縁の科からみた最近の精神科医像として興味深かった。
東京から来られたうつ病の権威が,同じような指摘をされたことも心に残っている。「最近の若い精神科医の診察をみていて愕然としたことがある。“うつ病らしき患者さん”を面接しながら,一所懸命机の下で指を一本一本折りながら症状を確認していて,症状が5つになるとほっとした表情を浮かべて,診断は“うつ病”とカルテに書き込んでいるのである。これは,DSM-IVの大うつ病の診断基準を満たしたことを意味するのだが,その患者さんは入室時から生気がなくうな垂れていて,抑うつ気分や早朝覚醒を小声で訴えているのだ。過去にうつ状態のエピソードがあったことも確認できている。どうして症状をいちいち数えないと診断できないのでしょう。笑い話のようで,笑えない恐ろしい話です」といった内容であった。
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